この初恋に、ピリオドを
「本当、とても可愛らしいお嬢さんですね。その振袖もよく似合ってらっしゃるわ」

父と母が口々に心春を褒め、降谷管理官たちは「いえいえそんな」とニコニコと笑いながら言う。だが、両親に挟まれた心春は総司の顔を見ないままただ俯いていた。

「……お嬢さん、気分が優れないのかしら?」

母が心配そうに訊ねると、心春ではなく降谷管理官が「大丈夫ですよ」と答える。

「娘は緊張しやすいんです。きっと総司くんを見て照れているでしょう」

「そうなんですか?」

総司は心春を見つめる。心春とは未だに視線の一つすら合っていない。降谷管理官の妻が彼女に耳元で何かを囁いているものの、彼女は顔色一つ変えていない。

(あれは、緊張しているわけじゃないよね。このお見合いが嫌なんだ)

嫌でも総司は気付いてしまう。そして、心春の中で総司が忘れられているということに気付くのも時間はかからなかった。

総司と心春は一言も話さず、互いの両親だけが今後のことを話していく。総司も話しかけたかったのだが、俯いたままの心春に話しかける勇気がなかった。
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