この初恋に、ピリオドを
「……ありがとうございます」

そう言った心春の顔は、まるで花が咲いたような笑顔だった。それは、あの日総司が恋をしたあの笑顔である。総司の胸が痛みを感じながらも高鳴っていく。

(ああ、この笑顔がずっと見たかったんだ……)

心春の中にもう総司は影すらない。たった一年しか過ごした時間がないのだ。日常の中に幼い頃の記憶が埋もれてしまうのは仕方がない。前の総司はそれが嫌だった。思い出してほしかった。だが、今の総司は今の自分のことも忘れてほしいと思っている。

(春ちゃんの好きな人は僕じゃない。僕が春ちゃんの笑顔を奪っている。そうしてまで結婚したくない。好きな人には、世界で一番幸せになってほしい)

好き、大好き、愛してる、そんな言葉が総司の心の中に渦巻き、喉から飛び出そうとしている。それを必死に抑え、総司は笑顔を浮かべたまま言った。

「短い間でしたが、ありがとうございました。どうか幸せになってください。……さようなら」
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