この初恋に、ピリオドを
椅子から立ち上がり、心春を振り返ることなく部屋から出ようとしたその時、「総司さん」と心春に初めて名前を呼ばれた。総司は振り返ることなくその場で立ち止まり、心春からの言葉を待つ。

「ごめんなさい。ありがとう」

その声は、今まで聞いた声の中で一番優しいものだった。まるで、春風のように温かいものが総司の心を包んでいく。

何も言わずに総司はその場を後にした。



数時間後、総司がマンションに戻ると部屋から心春の荷物は全てなくなっていた。病院を出た後、すぐに荷物をまとめて出て行ったようだ。それに少しホッとする気持ちと、悲しい気持ちが入り混じり、総司はため息を吐く。すると、インターホンが鳴った。

「はい」

ドアを開けると、そこには降谷管理官とその妻が立っていた。二人は動揺したような顔をしている。

「婚約破棄をしたと連絡を貰ったが、本当なのか?」

降谷管理官の問いかけに、総司は静かに「はい」と答える。二人は顔を見合わせた後、「何故?」と詰め寄った。
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