この初恋に、ピリオドを
「もしかして、心春が何かしたのか?」

そう訊ねる降谷管理官に、総司は「いいえ、違います」とすぐに言い首を横に振る。幸せを願った彼女は何も悪くない。悪いのは彼女を強引に手に入れようとした自分だ。

「お嬢さんは、とても素晴らしい人です。夢を、幸せを、希望を追い求める情熱的な人です。そんな人を幸せにする勇気が僕にはありません。逆に不幸にしてしまう。だから、彼女は何も悪くないんです」

総司が笑顔でそう言うと、「申し訳なかった」と降谷管理官とその妻は頭を下げる。総司は「顔を上げてください」と慌てて言った。だが、二人はなかなか頭を上げようとしない。

「君には幸せになってほしかったんだ」

「傷付けることになってしまって、申し訳ありませんでした」

深々と頭を下げ続け、二人は帰って行った。その後ろ姿を見送った後、総司はゆっくりと息を吐く。風が頬を撫でて行った。



それから一年後、総司は変わらず警察官として市民のために働いていた。今日も事件が起きた。捜査会議に出席し、書き込みをして回り、防犯カメラの映像をチェックしていく。大変な仕事だが、忙しい分一年前のことを考える時間がないため、助かっている。
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