この嘘に、ピリオドを
心春がそう言うと、笑っている総司の瞳が揺れる。だが、彼はとても幸せそうだ。

「短い間でしたが、ありがとうございました。どうか幸せになってください。……さようなら」

ベッドの枕元に置かれた椅子に座っていた総司は立ち上がり、ゆっくりと歩いて行く。その後ろ姿を見ていた心春は、総司の手が微かに震えていることに気付いた。その時、今までほとんど見ることのなかった彼の気持ちが、少しだけ見えた。

(もしかして、あの人はーーー)

総司が自分に向けていた想いは、決して嘘ではなかった。それに初めて気付いた。それと同時に胸が苦しくなる。知らず知らずのうちに、心春はたくさん彼を傷付けていた。

(こんな私を好きになってくれていたのね……)

拳を握り締め、心春は唇を動かす。初めて彼の名前を呼んだ。だが、彼は振り返ることはない。それでも伝えなければならない。このまま言わずに別れれば、ずっと後悔してしまう。

「ごめんなさい。ありがとう」

総司は、何も言わずに去って行った。
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