課長に恋するまで
 仕方なく間宮に階段で落ちて、知らない男の人に受け止めてもらった事を話した。

「どんな人だったんですか?」

 間宮の目がキラキラと輝き出した。

「どんなって、顔は見てないの。恥ずかしくてそれ所じゃなかったから。ネクタイしてたから、多分スーツだったぐらいしか印象がない」
「もったいない。そういうの、運命の出会いかもしれないのに」
「だって、いきなりだったんだよ。そんな余裕ないよ。人も多いし、迷惑になっちゃいけないってそれしか考えられなかった」
「顔を見てないって事は、先輩より背が高いから?」
「うん、私より背は高かった」
「太ってました?痩せてました?」
「中肉中背って感じかな。いや、少し細めかな。お腹出てなかったし」
「匂いは?」
「えっ、匂い?」

 思い出してみる。

「なんかいい匂いだった。日向の匂いっていうか」
「なんですか、それ」

 間宮が笑う。

「だってそういう印象しかないから」
「あ、ネクタイはどんな柄でした?」
「普通の、紺色のレジメンタルタイ」
「他には何か特徴ありません?」
「うーん」

 腕を組んで考えてみる。
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