課長に恋するまで
「こんなに早く逝っちゃうなんて思わなかった。だって、紀子、そんな事一言も言ってなくて……」

 一瀬君が肩を震わせる。

「痩せちゃったけど、まだ大丈夫だと思ってたから……、突然過ぎて、本当に突然過ぎて……」

 涙交じりの声が痛々しい。

「紀子、最期にメールくれたんです。誕生日おめでとうって。今日が私の誕生日だから……」

 何て事だろう……。
 誕生日に友だちは亡くなってしまったのか。

 年を取る毎に一瀬君は友達の事を思い出してしまうんだ。
 来年も、再来年も……。

 なんて悲しい誕生日なんだ。

 思わず一瀬君に手が伸びる。

 肩に触れると一瀬君が悲しみに満ちた顔でこっちを向く。
 次の瞬間、一瀬君を抱きしめた。

 上司として一線を越えてる。
 しかし、悲しみでいっぱいの一瀬君をほっとけない。
 少しでも悲しい感情を受け止めてあげたい。

「泣いていいよ。大丈夫だから」

 腕の中でうわぁぁぁぁぁぁぁと一瀬君が泣き崩れた。

 その姿に友人の事が大好きだったという想いが伝わってくる。

 堪らないな。本当に。

 若すぎる死と、友人を想う一瀬君に胸が痛くなった。
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