課長に恋するまで
 ホテルは京葉線の海浜幕張駅の南口に立っている。
 二十階建てのシティホテルで、ここで結婚式を挙げる千葉の友人が多く、うちの両親もこのホテルだった。

 セッティングをした父の気合の入れ方が伺える。
 愛美の時はあんなに結婚に反対していたのに、私の時は背中を押してくれるようだ。

 27才にもなって、彼氏の一人も紹介した事がないので、心配なのかもしれない。

 ホテルの垂れ幕に『ブライダルフェア開催中』という文字が大きく出ていて、急に怖くなる。
 このまま行ったら結婚まで一直線かも。

 ――運命の人を待つんじゃなくて、運命の人にするのよ。

 紀子の言葉が過った。
 結婚を決めた紀子は私にそう言った。

 紀子が亡くなってしばらく何もする気にならなかったけど、見合いの話をもらった日、夢に彼女が出て来た。

 紀子に背中を押された気がした。
 だから、見合いを受ける事にした。

 紀子、見守っててね。

 深呼吸をして、ホテルに入った。
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