課長に恋するまで
「おはよう」

 課長が近くまで来た。
 今日は紺色のスーツ姿で、とてもよく似合っている。

「おはようございます」
「金曜日に作成してもらった書類の事ですが、ちょっといいですか?」
 
 課長に書類を渡された。
 課長の左手には今日も結婚指輪がある。

 今朝も奥様に送り出されて来たんだろうな、なんて、想像して胸がチクッとした。

「は、はい」 
「少し修正をお願いしたいのですが、今、ファイル出せますか?」
「あ、はい」

 パソコンのフォルダを開いて、文書ファイルを開いた。
 課長が立ったままディスプレイを覗き込む。課長の気配が近づいた。
 ほんのりといい香りがする。

 やっぱり日向の匂いがする。

「ここと、ここ、強調する感じでお願いします。それから次のページも」
「はい」

 緊張しながらマウスを操作してページを進める。
 普段よりも近い課長の声にドキドキする。

「そうですね」

 課長が考えるようにディスプレイに顔を寄せる。

 うわっ、顔が近い。

 頬が熱くなる。

「やっぱり、このままで。修正は前のページだけでお願いします」
「わかりました。すぐに直します」
「始業時間になってからでいいですよ」

 課長が微笑んだ。とっても優しい表情。
 胸がキュンとする。
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