課長に恋するまで
 ディズニーランドには夜の8時までいた。

 足が痛くなるぐらいパーク内を歩き回った。スペースマウンテンの後はイッツアスモールワールドに行って、その次はプーさんのハニーハント、ホーンテッドマンション、トムソーヤ島で散歩して、蒸気船に乗って、ビックサンダーマウンテンに行って、スプラッシュマウンテンも行った。

 ジェットコースター系は平野さんが心配だったけど、気分が悪くなったのは最初のスペースマウンテンだけで、楽しそうにしてた。

 だけど、レストランで夕食を食べてる時にコンソメスープを飲みづらそうにしてた。

「熱いの苦手なんですか?」
 
 テーブルの向かい側の平野さんが気まずそうな顔をして笑う。
 その時、唇が切れて腫れてるように見えた。

「平野さん、唇どうされたんですか?」

 今朝会った時は傷はなかった気がする。

「何でもないですよ」
「何でもないって、気になります。私といた時にした怪我ですよね」

 困ったように平野さんが笑う。

「美月さん、笑わないで下さいよ」
「笑いませんよ。何があったんですか?」
「実は僕、ジェットコースター系ダメなんです」
 
 え?

「それでその……怖さに耐える為に唇をずっと噛み締めてまして」
「唇が腫れる程ですか?」
「……情けないですよね」

 平野さんが弱々しく笑った。

「これじゃあ、かっこがつかないな」
「苦手だって言って下されば良かったのに」
「美月さんを失望させたくなかったんです」

 平野さんはディズニーランドは初めてだから、私にお任せしますと言ってアトラクションを選ばせてくれた。最初のスペースマウンテンで苦手だって事を気づいてあげられなかった。

 ずっと楽しそうにしてたから大丈夫だと思ってしまった。

「ごめんなさい。本当にごめんなさい」

 なんか申し訳ない。
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