課長に恋するまで
「私、困った顔してますか?」

 自分では意識してなかった。

「少しだけですけど」
「すみません。なんで出会ったばかりの私を平野さんがそんな風に思って下さるのかわからなくて……」

 平野さんが考えるように顎を触った。
 そして静かに頷いた。

「あの日、初めて美月さんにお会いした日、なんて美しい人なんだって思いました。美月さんの姿も声も仕草も、その全部が僕の胸に響いたんです。美月さんと一緒にいたい。美月さんを幸せにしたいって思いました。一目惚れです。こんな気持ちになったのは美月さんが初めてです。魂に響いてしまったんです。心が震えたんです。僕は美月さんに恋をしてしまったんです」

 自分の事を言われてるとは思えなかった。

 平野さんの言葉は情熱的で、真実味があるけど、自分がそこまで想われる人間に思えない。
 だから、他人事のような感覚で聞いていた。

「美月さんが好きです。結婚を前提に付き合って下さい」

 言葉の最後を締めくくるように平野さんは言った。
 やっぱり自分の事だとは思えない。

 平野さんは私の何を見てるんだろう?
 本気で言ってるんだろうか?
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