課長に恋するまで
「一瀬、ちょっと来い」
ミーティングが終わった後、課長の側にいた石上に呼ばれた。
急ぎ足で石上の所に行った。
「上村課長、事務職の一瀬です。わからない事があったら一瀬に聞いて下さい」
課長の目がこっちを見た。探るような目だった。
課長はスラッとしてて背が高い。私の頭は課長の肩口ぐらいだ。
髪は短めで、丸顔で、鼻筋が通ってて、二重瞼の目は意志が強そうで、厳しそうにも見える。
年は前の課長と同じ年ぐらいに見えるから、四十を過ぎてるぐらいかな。
「一瀬君、よろしく」
ミーティングの時よりも、トーンを落とした静かな声で言われた。
「よろしくお願いします。必要な備品があったら言って下さい。すぐ揃えますから。社内もご案内します」
「ありがとう。頼むよ」
課長と目が合った。
急に胸がざわざわして、すぐに逸らした。
「じゃあ石上君、会議に行こう」
課長は石上と一緒にオフィスを後にした。
妙に緊張した。
きっと新しい人に会ったから。
これから毎日顔を合わせるんだもの、すぐに慣れる。
課長の机の周りの備品が足りてるか確認した。
机の上にはパソコン、電話、卓上、カレンダー、ボールペンなど基本的な物はそろっていた。
見慣れない物が一つだけあり、それは文庫本のようだった。
文庫本にはカバーがかかってて、背表紙が折れ曲がり、ボロボロになっていた。
あれ? 見覚えがある。