課長に恋するまで
「課長、ケーキ一口ずつ交換しませんか?」

 ケーキが運ばれて来て提案した。

「いいですよ」

 課長がブルーベリーとラズベリーがたっぷり乗ったレアチーズケーキを差し出してくれた。
 私も黄金のマロンクリームいっぱいのモンブランを差し出す。
 お皿を交換して、一口いただく。

 うん!

「レアチーズケーキ濃厚だけど、甘すぎないで美味しい! ベリーとのバランスがいいです!」
「モンブランは甘いマロンクリームが柔らかくて口当たりがいいですよ」

 感想を言い合い、皿をまた戻した。
 
 一口分かけたモンブランが戻って来て、それが妙に嬉しい。
 課長が食べた続きの所にフォークを入れて、口にした。

「クリームふわふわで美味しいー!」

 目が合うと課長がクスッと笑う。

「一瀬君は本当に美味しそうに食べますね。一緒にいて楽しいです」

 楽しいと言われてテンションが上がる。

「食べる事が趣味なんで。よく紀子と食べ歩いたな」

 自然と紀子の事が口から出た。
 課長がハッとしたような顔をする。

「その友人は、もしかして」

 続きの言葉を課長は飲み込んだ。
 亡くなった人?って聞きたかったのかもしれない。
 
 課長に抱きしめてもらった事を思い出した。
 あの時、課長に悲しみを受け止めてもらえたから、今、私は何とかやってられる気がする。

 課長に救ってもらった。
 あの時だけじゃない。階段から落ちた時も、見ず知らずの私を受け止めてくれた。

 そう思ったら胸の奥が熱くなる。
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