課長に恋するまで
「課長、その節はありがとうございました。おかげ様で何とか友人の死も乗り越えられたと思います」

 課長の目が優しく微笑んだ。

「良かったです。少しでも役に立てて」
「本で読んだんですけど、人間って生まれると同時に崖から落ちるのと同じ状態になるんですって。生まれると同時に死ぬ事も確定するって意味なんですけどね」
 
 課長が興味深そうに頷いてくれる。

「紀子が亡くなって、その意味がよくわかったんです。生きている間は生きてる事にしか目がいかなくて、死ぬ事なんて考えなかったから。でも必ず終わりはくるんです。それが今日なのか、一年後なのか、ウン十年後かわからないだけです。そう思ったら生きてるのって切ないなって思ったんです。だからなるべく悔いのないように生きたいって思うようになりました。今日課長に会えて、こうして一緒にケーキが食べられて良かったです」

「確かに生きてるのは切ないね。だから一生懸命って言葉があるんだろうね。命を懸けて物事に取り組めば、きっと後悔する気持ちにはならないんだよ。僕ね、一生懸命って言葉、人から頑張りなさいって押し付けられてる気がしてあまり好きじゃないけど、今、それもいいなって思った。一生懸命誰かと笑い合ったり、ケーキを食べたりするのはいいと思います。僕も一瀬君とケーキが食べられて良かった」

 課長の言葉が胸に沁みる。
 こうして課長と今、一緒にいられて本当に幸せ。
< 133 / 247 >

この作品をシェア

pagetop