課長に恋するまで
 自宅に戻ってからも、課長の事が頭から離れなかった。

 ――好きだよ。

 課長にそう言われた瞬間、心が揺さぶられた。
 平野さんに言われた時とは全く違う。

 課長の前で平気なふりをするので精いっぱいだった。動揺しまくって、あの後の事はよく覚えてない。

 何も手につかない。

 ソファに横になって、課長の事を考えた。
 いや、課長の事しか考えられなくなった。

 今日の課長の服装がカジュアルだったとか、笑顔が素敵だったとか、落ち着いた話し声が良かったとか、課長の話が面白かったとかを思った。
 課長との会話も一字一句思い返した。

 テーラーのお父さんとお兄さんがいて、鋏が怖くて、家庭科が2で、左の人差し指には傷があって……。

 ――好きだよ。

 あの言葉がまた耳の中で蘇る。
 
 しっかりと課長の声を覚えている。
 とても自然な言い方で言われた。声には柔かさがあって、優しさがあって、落ち着きもあって、大人の男の人って感じで……。

 胸が熱い。
 
 思い出すだけで、心が課長でいっぱいになる。
 こんな気持ち初めて。

 どうしよう。

 やっぱりこれって――、

 これって――――あれなの?
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