課長に恋するまで

「愛妻家の人っていいよね。本当にいいなー」
　四杯目のビールを飲みながら、鈴木さんが寂しそうな顔をした。

「鈴木さんのご主人だって、愛妻家でしょ？誕生日と結婚記念日には必ず薔薇の花束をくれるって言ってましたよね」

　鈴木さんがビールジョッキに視線を向けて、深いため息をついた。

「……旦那の事が信じられなくなってね」
「え？」
「出張に行くって聞いてたんだけど、旦那の会社から電話がかかってきて、ご主人いますか？って聞かれたの」
「どういう事ですか？」
「会社には風邪で休むって連絡が入ってたんだって」
「じゃあ出張というのは？」
「嘘」

　鈴木さんが苦く笑った。

「嘘をついてまで出かけるってどいう事だと思う？」

　鈴木さんが悲しそうな目を向けて来た。

「ご主人にその事は言ったんですか？」
「聞いたよ。一人でふらっと出かけたくなったんだって言ってた。でも、信じられなくて、ゴールデンウィーク中はずっとケンカだった」

　鈴木さんの顔に疲労が浮かんでた。

「旦那の財布を見たら、ホステスの名刺が出て来た。ゆかりって女で、銀座のホステスなの。私より若くてかわいい子でさ」
「ホステスに会ったんですか？」
「お店のホームページに写真が載ってたの。後、紹介の動画にも映ってた。その子、すごく魅力的に見えた」