課長に恋するまで
 間宮と二人で十人分のコーヒーをワゴンに乗せて、同じフロアにある第二会議室に行った。

「失礼します」
 中に入ると、うちの課の人間が5人と、取引先の社員が5人長テーブルを挟んで向き合っていた。商談中のようだ。

 石上が入り口近くの席に座ってた。

 視線でコーヒーを配るように促され、間宮と一緒に一番奥の席から回った。
 課長は一番奥の席に座ってた。

 課長の前にコーヒーを置くと「ありがとう」と小さな声で言われた。
 その声が今朝の人の声とやっぱり似てる気がした。

 さりげなくネクタイの柄を確認しようとした時、石上の前にいた、取引先の社員が突然、英語で巻くし立て始めた。何か揉めてるよう。

 簡単にしかわからないけど、取引価格に納得できないという事を主張しているみたい。

 石上が説明を求められ、珍しくたじたじになっている。

 まずい状況だ。

 コーヒーを配っていた間宮も心配そうな顔をしていた。
 さらに向こうの主張が早口の英語で続いた。
 早すぎて、きっと石上はついていけてない。
 石上を見ると、顔にダメだって書いてあった。

 課に戻って、一番英語に堪能な社員を連れて来るしかない。
 会議室を出て行こうとした時、上村課長が石上の代わりに英語で話し始めた。
 相手の社員と充分に渡り合える流暢な英語で驚いた。
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