課長に恋するまで
「上村課長、カッコよかったですね」

 会議室の帰り、間宮が嬉しそうに言った。

「課長が英語で話し始めたら空気変わりましたよね。いきなり英語で話し始めた人、急に大人しくなっちゃって、スカッとしました。課長に恋しちゃうかも」
 間宮がうっとりとした表情を浮かべた。

「単純ね、間宮は」
「だって仕事ができる男の人ってカッコいいじゃないですか。前の課長よりも上村課長の方が全然いいです」
「彼の事が忘れられないって金曜日は泣いてたのに」
「いつまでも立ち止まっていられないんです。前を歩かなきゃ」

 前向きな間宮に少し安心した。
 金曜日は本当にボロボロだったから。

「という訳で、一瀬先輩、協力して下さい」
「協力?」
「上村課長と親しくなりたいんで、課長の情報があったら教えて下さい。先輩、課長のお世話係なんでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「それで、早速ですけど何かあります?」

 間宮が期待いっぱいの目で見た。

「そんな事より、仕事でしょ。ほら、早く戻って書類やらないと。今日中の書類が間宮もあるでしょ」

 間宮が途端につまらなそうな顔をした。

「会社には仕事をしに来てるんだから、余計な事しないの」

 先輩らしく説教する。

「せっかく希望の光を見つけたんですから、いいじゃないですか」

 間宮がぶつぶつ文句を言うが、聞き流した。

 それよりも課長のネクタイの柄がレジメンタルじゃなくて良かった。
 その事に安堵してた。

 やっぱり今朝の男の人は課長じゃない。

 良かった。
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