課長に恋するまで
 午後出社すると、石上に「こんな時に休むな」と叱られた。
 それから「表参道に今から行って来い」とも言われ、頭の中に?が浮かぶ。
 
 予定外の業務だった。普段社外に出る事はほとんどない。
 
 ぽかんとしてると、石上に説明される。

「課長がお前をご指名したんだよ。レイ・リーの件で」

 レイ・リーとは香港のアパレルブランドの名前で、今、世界中のファッション業界で注目されていた。
 先日課長が香港に出張に行ったのもレイ・リーとの契約を締結する為だった。
 日本でレイ・リーと契約してる所はまだなく、契約が成功すればうちが輸入総代理店となって独占的な販売の権利を得る事ができる。利益は数十億円以上を見込んでる。という物凄い案件だ。

「うちがレイ・リーブランドを扱う条件として、日本でのブランドショップをこっちが用意する事になった。それで出店準備のプロジェクトリーダーとして、課長が一瀬を指名したんだよ」

 え?なんで?

「石上じゃないの?」
「お前、それ言うか。本当は俺がやりたいよ。でもな、課長がどうしても一瀬で行くって言うんだよ。仕方ないだろ」

 夢でも見てるんだろうか。ってぐらい大きな責任を伴う仕事だ。
 だんだん怖気づいてくる。
 
 だって、だって、私、事務職だよ。主任でもないよ。
 プロジェクトリーダーなんてやった事ないよ。

 そんな大事なお仕事、私でいいの?
 
「課長が待ってるから、さっさと行って来い!」

 おろおろしていると石上に怒鳴られた。
 頭痛に響く。

 なんて日なんだろう。本当に。
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