課長に恋するまで
「課長」
 
 一瀬君にそう呼ばれた。
 オフィスではなく、僕のマンションにいるようだ。
 どうして一瀬君がここにいるんだろう。

 不思議に思っていると、一瀬君がソファに座って、甘えるようにくっついて来た。
 よく見ると一瀬君は見慣れた会社の制服ではなく、水色のワンピース姿だ。とてもよく似合ってる。

「ねえ課長、キスして下さい」
 
 強請るように見つめられた。
 
 え、キス?
 聞き違いか?

「ねえ、キスして」

 やはりキスだ。
 これはどういう状況なのだ?

「いや、一瀬君、僕は結婚してるから、そういう事は」
「でも奥さん亡くなってますよね」
「そうだけど」
「もう二十年近く経つんだから、いいんじゃないんですか?」
「そう言われても」
「課長は一生、奥さんだけなんですか?」
「そう決めて結婚した」
「酷い」

 一瀬君が涙を浮かべた。

 泣かせてしまった事に焦る。女性の涙には弱い。
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