課長に恋するまで
 定食屋【一味】は会社の裏にひっそりと佇んでいた。店の前まで行くとカツオだしの香ばしい匂いが漂っている。
 空腹を刺激され、お腹が鳴りそうになるのを、ぐっと力を入れて堪えた。さすがに課長の前でお腹ぐーなんて音鳴らせない。

「昭和感、半端ないなーこの店」

 石上が店構えを見ながら言った。
 くたびれた二階建ての建物は壁中が蔦で覆われていて、確かに古めかしい感じはする。

「一瀬、大丈夫なのか?今にも潰れそうだぞ」

 石上の失礼な発言にムッとする。
 失礼しちゃうと思いながら、間宮たちを見ると、不安そうな顔をしていた。

 あれ?何か間違えたかしら?
 みんなが不安そうにしている理由がよくわからない。

 ここは本当に美味しいのに。

「石上君、このお店からカツオだしのいい匂いがします。化学調味料ではなく、ちゃんと出汁を取ってるんだと思います。きっと美味しいですよ」
 助け船を出すように課長が言ってくれた。

 課長はこの店の良さわかってくれるんだ。嬉しくなる。
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