課長に恋するまで
 パーティー会場の洋館は横浜の山手にあった。
 
 1859年、江戸幕府が結んだ通商条約によって横浜港が開港され、イギリスやアメリカから沢山の商人が訪れるようになり、横浜は居留地として発展した。その名残で今でも山手一帯は洋館が並ぶ有名な地域となっている。

 という事を来る前に少しだけ調べて知った。
 一瀬君と話す今夜の話題が何か欲しかった為だ。
 今までそんな事意識した事がないのに、妙に緊張していた。

 駅からタクシーを拾い、急な坂道を登っていく。
 午後六時を過ぎてもまだ日は高く、窓の外の景色がハッキリと見えた。
 通り沿いには洒落た家々が建ち、教会や私立の学校もあった。

 駅の反対側には賑やかな中華街があるが、同じ地域とは思えない程、こちらは静かで、近寄りがたい雰囲気がある。

 一瀬君とは会場となる洋館で待ち合わせている。
 突然の誘いにもかかわらず、快く引き受けてくれた。

 今夜のパーティーを楽しんでもらえるといいが。

「お客さん、中まで入っていいんですか?」
 運転手に聞かれた。

 黒い鉄柵に囲まれた白い洋館が見えた。
 タクシーで乗り付けるのも躊躇われる、二階建ての立派な建物だった。

「ここで降ります」
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