課長に恋するまで
 時間が止まったように一瀬君と見つめ合ったままでいた。

 逸らさなきゃいけない。
 だけど、逸らせない。

 耳に入ってくるピアノの音色だけが時を刻んでるようだった。
 曲はいつの間にかムーンリバーからFly me to the moonに変わっている。
 
「映画だったら……」
 
 一瀬君が喉の奥から絞り出したような細い声で言った。

「何?」

「……キスシーンかなと思って」
 
 茶化すように一瀬君が笑った。

 抱きしめたい衝動に駆られる。

 衝動を抑えるように、あははと、小さく笑った。

「確かにキスシーンって感じだね」

「キスします?」
 ふざけるように一瀬君が言った。

「どこに?」

「それは……」と言って、一瀬君が考えるような顔をした。
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