課長に恋するまで
「手の甲とか、おでことか、頬とか……」
 
 一瀬君の声がだんだん小さくなる。
 最後の言葉は聞こえなかった。

「何?」
「だから、その……」
 恥ずかしそうに一瀬君が俯いた。

「唇とか?」

 一瀬君が頬を染めて弱々しく見てくる。
 初々しい反応が可愛い。
 わざと困る事を言っていじめたくなる。

「して欲しいの?」
「え」

 驚いたように一瀬君が息を飲んだ。

「……して欲しいです」

 冗談だと言おうとしたら、先に一瀬君が言った。
 今度はこっちが面食らう番だ。
< 204 / 247 >

この作品をシェア

pagetop