課長に恋するまで
「一瀬君、酔ってるね」
「課長も酔ってるでしょ?」

 顔を見合わせて笑った。
 ひとしきり笑って、二人で満月を見上げた。
 群青色の空に、さっきよりも強く月が浮かび上がっていた。

「きれい」

 囁くように一瀬君が口にした。
 月を眺める一瀬君の横顔が儚げで、一層美しく見えた。
 少年のように胸がドキドキする。
 こんな気持ちになったのはいつ以来だろう。

 恋と呼ぶには淡い感情。
 この瞬間がずっと続く事を願うような気持ち。
 そんな想いで一瀬君を見ていた。

「課長、今夜は誘ってくれてありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとう」

 一瀬君の手を取った。
 そっと手の甲にキスすると、一瀬君が恥ずかしそうに微笑んだ。
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