課長に恋するまで
 奥の席にいる一瀬君を眺めながら、鳩尾の辺りが重たくなった。
 間宮君が一瀬君の彼氏について意気揚々と話してくる。
 一瀬君と同じ年で、税理士で、今年の四月にお見合いで出会った人だと聞かされる。
 
 お見合いをしたなんて知らなかった。
 でも、ゴールデンウイークの最終日に商店街で会った時、好きだって言ってくれる人がいるという話を聞いた。

 そうか、その人がきっと見合い相手なんだ。
 好きだって気持ちがわからないと悩んでいたけど、彼を好きになれたんだ。

 良かったじゃないか。

 そう思うのに喜べない。
 大事な娘を取られるような気持ちなのかもしれない。

「課長ー!」

 目が合うと一瀬君が両手で手を振ってきた。
 すっかり酔ってるな、一瀬君。
 あんなに無防備な顔して。
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