課長に恋するまで
「前に話しましたよね。こんな私を好きだって言ってくれた人の事」

 静かな声で一瀬君が言った。

「その人をどうやって好きになったらいいかわからないって言ってたね」

「はい」

「好きになれたの?」

 一瀬君は黙ったままでいた。

「一瀬君?」

「課長、私、やっと恋ってものがわかるようになりました。恋愛感情がわからなくて悩んでたけど、あの時は恋をした事がなかったからわからなかったんです。課長の言った通りでした。そういう相手に巡り会ってないだけだったんです」

 そんな話もしたなと、一瀬君の言葉を聞きながら思い出した。
 もう一年近く前の事だ。妙に切なくなる。

「そう思える人に巡り会えたんだね」

「……はい」

 胸が鈍く痛んだ。
 そうか、一瀬君は結婚する人と恋が出来たんだ。
 
「良かったよ」

「課長のおかげです」

「僕は何もしてないよ」

 一瀬君が首を振った。

「課長に出会えたから、恋がわかったんです」
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