課長に恋するまで
「恋って切なくて、苦しくて、でも、好きな人といる時は本当に幸せを感じるものだってわかりました。私、幸せです」

 一瀬君が胸から顔をあげて、こっちを見た。
 至近距離で目が合う。

 一瀬君の目は恋しい男を見るような目だった。
 彼の事を思ってるからそんな表情になるのか。

 一瀬君に思われる男がうらやましい。

「私、課長と出会えて本当に幸せでした」

 別れの挨拶のように響いた。 
 もっと一瀬君と一緒に仕事をしたかった。
 もっといろんな事を教えてあげたかった。

 上司としてそう思う。

「僕も一瀬君に会えて良かった」

 苦い気持ちを飲み込むように言った。
 一瀬君が微笑んだ。

 寂しくて堪らなかった。
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