課長に恋するまで
 聡さんと表参道のカフェで待ち合わせた。
 晴れた日曜日だった。
 窓からは通りがよく見えた。手をつないだり、腕を組んだりして歩くカップルが目についた。

 みんな幸せそう。

 コーヒーカップを置いて、ため息をついた。
 課長の事が浮かぶ。
 一昨日、飲み会の後、課長にタクシーで送ってもらった。
 課長の手に触れた。

 大きな手だった。
 幸せだった。

 課長の奥さんは毎日、あの大きな手に触れてるんだ。
 課長の為にワイシャツにアイロンをかけて、ご飯を作ったりして待ってるんだ。
 休日は一緒にスーパーとか買い物に行くのかな。
 課長も料理するから、奥さんと並んでキッチンに立ってそう。

 奥さんがうらやましい。
 うらやましいと思う気持ちが罪悪感になる。

 結婚している人を好きになったらいけない。
 それが今はよくわかる。

 もっと早く課長に会いたかった。
 課長が奥さんに会う前に会いたかった。

 苦しい恋を忘れる為に結婚を決めた。
 聡さんの好意を利用して、私は悪い女だ。

「みーちゃん、お待たせ」

 聡さんの明るい声が響いた。
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