課長に恋するまで
 会社の上司で、19才年上で、結婚してて、奥さんを大事にしてて、優しくて、いつも見守っててくれて、頭を撫でくれて、手をつないでくれて、一緒にいると幸せで、安心して、本当の自分でいられる気がして、そんな風に思えた人は課長が初めてで……。

 言葉にしながら想いが溢れる。

 こんなに、課長の事を好きになってたんだ。

 好きで、好きで苦しい。

 視界がぼやけて、聡さんが歪んで見えた。

 声が涙で震えた。

 喉の奥に熱いものが込み上がって声にならない。


「もうわかったよ。わかったから」

 聡さんはそう言った。

「そんなに好きで僕と結婚できる?」

「……ごめんなさい」
 
 無理だって事にようやく気付いた。
 課長を好きなまま結婚したら、聡さんを不幸にしてしまう。
 聡さんをこれ以上、悲しませたくない。

 自分の身勝手さが身に染みた。
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