課長に恋するまで
 帰りの電車に乗っていた。
 鈴木さん家を出たのは午後9時頃だった。

 ドアの側に立って、車窓の外の景色を見ながらぼんやりする。
 ワインを飲んだけど、鈴木さんの話を聞いて酔いがさめた。

 課長の奥さんが亡くなってたなんて知らなかった。
 それも二十年も前に。

 課長が一人暮らしだという事も知らなかった。
 言われてみれば、手作りのお弁当を持参してたし、パーティーの同伴も頼まれた。

 奥さんがいないからだ。

 どうして課長は言ってくれなかったんだろう。
 教えてくれたっていいじゃない。
 鈴木さんよりも私の方が課長と関わってたのに……。
 
 課長にとって私は個人的な話をする事もない、ただの部下なんだ。

 そう思ったら胸が痛くなった。
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