課長に恋するまで
 駅を出るとひんやりとした10月の風が頬を撫でた。
 濃紺の空には青白く光る、三日月が出ている。
 いつか、三日月を見ながら恋がしたいと思った事を思い出した。

 その願いが叶ってる事に気づく。

「かわいい月が出てるね」

 立ち止まって見上げてると、隣に立つ課長が言った。

「課長」

「うん?」

「私、私……」

 課長の事が好きです。

 そう口にしようとして、指先が震えた。

「課長、あの……」

 課長の方を見ると、目が合った。
 優しい目だった。
 恋しい気持ちで胸がいっぱいになる。
 この気持ちを口に出したいのに……。

「一瀬君、焦らなくていいんだよ」

 心の内側を読むように課長が言った。
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