課長に恋するまで
「いつか恋がわからないって言ったよね?」

 課長が言った。

「はい」
「今、その事を思い出してね。そこのコンビニで雨宿りしながら聞いたなって……」

 課長が目の前のコンビニを見た。
 カウンター席で課長とコーヒー片手に話したのはもう一年前だ。

「今、その時と同じぐらい思いつめた顔してるよ」

 課長が眉を寄せ心配そうな顔をする。

「少しずつわかっていく事もあると思うんだ。だからさ、一瀬君、きっと大丈夫だから」

「大丈夫なんですか?」

「うん。大丈夫」

 課長が穏やかに笑った。
 課長の言葉に安心する。

 今夜はまだこの気持ちは仕舞っておこう。

「じゃあ一瀬君、おやすみ」
「おやすみなさい。課長」

 課長と駅前で別れた。三歩歩き、後ろを見た。
 通りを真っすぐ歩く課長の後ろ姿が見える。

「課長、好きです」

 課長の背中に向かって口にした。
 今はそれが精いっぱい。

 でも、いつかは伝えたい。

 課長に恋してますって。
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