課長に恋するまで
「もう、10時か」

 課長が腕時計を見て呟いた。
 
 8時からお店にいるから、2時間も話していた。
 ドリンクバーも最初の一回しか取りに行かなかった。
 
 こんなに夢中になって話した事はなかったかもしれない。

「すみません。遅くまで」
「いや、僕の方こそ調子に乗ってしまった」

 課長が伝票を持って席を立った。
 レジで財布を出そうとしたら、課長がさっさと会計を済ませて店を出て行く。

「あの、私の分のお代」

 店の外で声を掛けると、課長は「いりませんよ」と言った。

「でも、そういう訳には」
「付き合ってもらったお礼です。あ」

 課長が困ったように空を見た。
 急に雨が降って来た。

 夜から雨になるという天気予報を思い出した。
 地面に叩きつけるような強い雨だった。

 課長と目を合わせる。

「傘、ないですよね?」
「はい」

 かと言ってずっとファミレスの出入口にいる訳にもいかない。

 どうしよう。

「一瀬君、そこ入ろう」

 そう言われて、課長と一緒にファミレスの隣のコンビニに入った。
 コンビニにはカウンター席があった。レジではコーヒーを売ってる。

「課長、少し雨宿りしませんか?」

 思い切って提案した。
 課長がこっちを見て瞬きをした。

「いいですよ」
「じゃあ、付き合って頂くお礼にコーヒーごちそうさせて下さい」
 課長が柔らかい笑みを浮かべた。
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