課長に恋するまで
 会社で見る課長はやっぱり無表情だ。

 電話を受けたり、石上に指示を出している課長を見てそう思う。
 昨夜、一緒にいた人とは別人みたいに感情の読めない顔で仕事をしている。
 奥さんの事を話した、あの愛情豊かな表情は微塵も感じられない。
 
 課長って、二重人格?

 そう思えるほど、オフィスにいる課長は違う。
 チャコールグレーのスーツを隙なく着こなして、ぴんと背筋の伸びた姿勢で歩き回ってる姿からは笑ってる所なんて想像できない。

 でも、冷たい訳でもない。

 同じ課にいる社員たちにも、課長は気遣うような言葉をかけていた事を今日知った。

「仕事の量が多すぎていませんか?」
「一人で抱え込んでませんか?」

など、それは昨日私に言ってくれた言葉だった。
 
 みんなの話を聞いて少しだけ落ち込んだ。
 私だけに言ってくれた言葉じゃなかったんだ。
 そうだよね。みんなに平等に接するのが課長の仕事だよね。

 わかってるけど、モヤモヤとしたものが浮かんだ。
 なんだろう。このモヤモヤ。
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