課長に恋するまで
「だから、何もないって」

 さっきよりも強く言った。
 間宮はまだ納得のいかないって目で見てくる。
 可愛い顔してて、しつこい。

「わかった。話すわよ。実はね」と言って、制服のシャツがよれよれである事を打ち明けた。
「昨日、課長に注意されたんだけど、替えのシャツ持ってくるの忘れちゃって。それで、バレないように課長の動向を伺ってたの」
「先輩」

 間宮が真面目な顔をした。

「何?」

 目が合うと、間宮が可笑しそうに笑い出した。

「ウケるんですけど」

 テーブルをバンバン叩いて間宮が急に笑い転げる。

「シャツで注意されるって、女として終わってますよ。ていうか、先輩、先輩なんだからしっかりして下さいよー」 

 間宮にバカにされる。

「ああ、だから言いたくなかったのに」

 独り言が零れる。
 間宮が笑い続ける。

「でもなんか、先輩かわいいですね。そんな事気にしてるなんて」

 目じりに溜まった涙を拭いながら間宮が言った。

「なんか先生に怒られないようにしてる小学生みたい」
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