課長に恋するまで
「それで終わった後も、イチャイチャしてて。完全に二人の世界。私がいるのも気づかなくて。一瞬、私、透明人間になったかと思いました」

 間宮の声にだんだん怒りが込められていく。

「純ちゃんがあんな人だと思わなかった。もう最低です!」
「うん。最低だね。間宮っていう彼女がいるのに他の子といるんだから」

 間宮が急にわーっと泣き出した。

「間宮、大丈夫?」
「先輩、せんぱーい」

 テーブルに突っ伏して間宮が盛大に泣いた。
 展示会の二の舞だ。

「最低でも、まだ純ちゃんが好きなんです。あんな現場見ても好きなんです」
 泣きながら間宮が言った。
 間宮は本当に辛そうだった。

 だけど私には人を好きになる気持ちがわからない。
 失恋で泣いた事なんて当然ない。
 だから、間宮にこれ以上なんて言ってあげたらいいかわからなかった。

 妹から先生との恋の話を聞いた時、置いていかれた気がした。
 このままじゃいけないと思って、その時大学生だった私は初めて男の人と付き合った。同じ学部の人で優しい人だった。

 彼とはよく一緒に映画を観に行った。私も彼も映画が好きだったから。
 でも、彼とは三か月もしないうちにただの友達に戻った。

 それから、大学内で彼が親し気に女の子と歩いているのを見た事がある。
 その女の子が彼の彼女らしい事を人づてに聞いたけど、胸は痛くなかった。涙も出なかった。
 びっくりするぐらい何も感じなかった事に驚いた。

 私には誰かを好きになったり、恋したりする感情が欠如してる事に初めて気づいた。
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