課長に恋するまで
「どうぞ」

 本を取ってくれたのは課長だ。
 全く気配に気づかなかった。
 いきなり距離が縮まって、鼓動が早くなる。

「どうしました?」

 本を取ろうとしないから、課長が少し困った顔をする。

「違う本でしたか?」
「い、いえ」

 緊張でカチンコチンになった腕をぎこちなく動かして、受け取った。

「ありがとうございます」

 課長と対面して頬が熱くなる。
 今日、課長と挨拶以外で話したのは初めてだ。
 本を受け取った時、課長の人差指の先が少しだけ触れた。

 触れた部分が熱くなる。

 どうしちゃったんだろう、私。
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