課長に恋するまで
「すみません」

 背中に冷や汗をかきながら、慌てて落としたファイルと本を拾う。
 最悪な事にファイルの一つが床に落ちた衝撃で壊れた。
 まとまっていた百枚以上の書類が逃げ出すように床中に散らばった。

 もう、やだ。

 課長がいるのに。

 恥ずかしい。

「盛大にやりましたね」

 課長が散らばった書類を何枚か掴んで持って来てくれた。

「本当にすみません」

 課長から書類を受け取った時、また指先に触れた。

 びくっとして、手を引っ込める。

 課長が口元に拳を当てて、小さく笑った。

 優しい顔……。

 ドキッ。

 胸が熱い。
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