課長に恋するまで
「一瀬君が落ち込んでる時に偶々、一緒にいたから話してくれたんだよね?」

 課長は全てを知ってるような顔をした。

「すみません。課長に話す話ではなかったと反省してます」
 恋愛感情が欠如してるなんて悩みを聞かされて、きっと課長はいい迷惑だ。紀子の結婚がうらやましくて、つい話してしまった。

「本当にすみません」
 謝罪の言葉しか出て来ない。

「そんなに謝らないで」
 課長が宥めるようにそっと私の右肩に触れた。
 手のひらから課長の優しさが伝わってくる気がする。
 
「大丈夫だから」
 課長が穏やかに言った。
 安心する声だった。

「一瀬先輩、いますか?」

 資料室のドアが開いて間宮が入って来た。
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