課長に恋するまで
 課長が間宮に気づかれない前に、肩に置いた手を離した。

「課長もいらしたんですか?」

 棚の方に来た間宮が、向かい合って立つ課長と私に視線を向けた。

「間宮君、丁度良かった。一瀬君を手伝ってあげて下さい」

 課長は無表情に間宮を見て言った。
 あ、上司の顔に戻った。

「先輩、どうしたんですか?」

 床に散らばった書類を見て間宮が目を丸くした。

「ファイルが壊れちゃって、課長に手伝ってもらって集めてた所なの」

「頼みます。間宮君」

「はい。任せて下さい」

 間宮は輝くばかりの笑顔を課長に向けた。
 課長は間宮に頷いて、資料室を出て行く。
 その後ろ姿を目で追った。
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