課長に恋するまで
「奥様を亡くされてから、上村さんはお一人なんですか?」

 香織ママに聞かれた。

「ええ、まあ」
「再婚は考えなかったんですか?」
「そんな余裕なかったんで。毎日が戦争でした。下の子なんて一才になる前でしたから」
「ご苦労なさったんですね」

 香織ママがねぎらうように言ってくれた。

「こいつは奥さんにベタぼれで出世を蹴った男なんだよ」

 酔いの回った香川が絡んでくる。

「あの時、俺と一緒に香港に行ってれば今頃、本部長ぐらいになってたんじゃないか?」
「買い被り過ぎだよ。香川」
「上村、でも俺は嬉しい。お前がやっと出て来てくれて」

 香川が涙ぐむ。
 昔から酔うと泣き上戸だ。
 変わらないな。香川は。

「でも、結婚指輪してるんですね」

 左隣に座る、ゆかりちゃんに言われた。
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