課長に恋するまで
 間宮を何とか落ち着かせて、駅で別れた。

 帰りの電車に揺られながら窓の外をぼんやりと眺める。
 窓に映る、地味な自分の顔を見た。

 間宮みたいに可愛い訳でもなく、美人でもない。
 だけど、ブスって訳でもない。つまり、印象に残らない普通の顔だ。

 身長も高い訳でも低い訳でもなく、普通。体型も太ってる訳でもなく、痩せすぎてるという訳でもない。

 本当に普通過ぎる。
 
 普通過ぎる自分にため息が出る。
 もう少し印象的な顔だったらいいのに。
 お母さんは美人なのにな。お父さんに似ちゃったな。

 なんて、今さらな事を思う。
 慰めを求めるように空を見ると、かわいらしい三日月が出ていた。

「美しい月の夜に生まれたから、美月(みづき)って名前にしたのよ」

 お母さんの言葉を思い出した。

「美月が素敵な人と出会いますようにって、願いも込めたのよ」
 お母さんはそうも言ってた。

 素敵な人なんて、一生現れない気がする。

 普通過ぎる私は誰の目にも留まらない。
 その上、人を愛する能力に欠けている。

 恋愛映画とか、ドラマとかを憧れるように見るだけ。

 人を好きになるのってどんな気持ちなんだろう。
 間宮みたいに苦しくなるのかな。

 愛美(いもうと)みたいに親の反対を押し切っちゃうぐらい強い気持ちになるのかな。

 恋がしてみたい。

 無理だと思っても、ずっとそう願ってる。
 大恋愛なんて望まないから、少しだけでいいから、恋がしてみたい。
 
 願うように三日月を見つめた。
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