課長に恋するまで
「一瀬君」

 目が合って、今朝の夢が過る。

 少し気まずい。

「書類のチェックお願いします」

 書類を受取り、確認する。
 不備はなさそうだ。

「課長」

 書類に目を通しているとまた呼ばれる。

「はい?」

 書類に視線を落としたまま返事をした。

「あの、良かったら、これ、どうぞ」

 これ?

 渡されたのは錠剤だった。
 錠剤の包みには頭痛薬とある。

 なんでわかったんだろう。

「余計でしたか?」

 不思議に思って、一瀬君の感情の読めない顔をじっと見てると言われた。

「いや、正解」

 一瀬君が口の端を上げて、控えめな笑みを浮かべた瞬間、可愛いと思ってしまった。
 

「良かったです」

 そう言って一瀬君は嬉しそうに席に戻って行った。

 嫌ってたんじゃないのか?

 一瀬君がよくわからない。
< 68 / 247 >

この作品をシェア

pagetop