課長に恋するまで
「ミートボールと玉子焼きがあるじゃないですか？」
　間宮君が一瀬君のお弁当箱を覗き込む。

「課長に食べて頂ける味じゃないから」

　一瀬君が自信がなさそうに言った。

「僕のも一瀬君に食べて頂ける味ではないかもしれませんね」

　冗談めかして笑うと、「そんな事ありません」と一瀬君が言った。

「じゃあ、食べてみますか？」

　一瀬君に弁当箱を差し出した。

「でも、あの、交換できる物がないので」
「それなら先に頂いてます」
「え？」

　一瀬君が不思議そうに見た。

「頭痛薬を頂きましたから、そのお礼です」
「あ」と、一瀬君がわずかに嬉しそうな顔をした。
「一瀬ちゃん、課長もこう言ってるし、頂けば？」

　鈴木さんが援護してくれる。

「じゃあ、いただきます」

　仕方なくという感じで、一瀬君は差し出した弁当箱に箸を伸ばす。

　一瀬君が取ったおかずは肉巻きではなく、その隣のきんぴらごぼうだった。しかも遠慮がちに薄くスライスしたごぼうとにんじんを一切れずつ取っただけだった。

　一瀬君の気遣いが微笑ましい。

　きっとこれ以上、メインの肉巻きを取ったら悪いと思ってくれたんだろう。
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