課長に恋するまで

出会い

 10月最初の月曜日。天気は曇り。
 普段と変わらない朝だった。
 
 会社がある大手町までは最寄り駅から地下鉄で二十分になる。
 勤めているのは大手の総合商社「三友(みつとも)商事」。
 食品から石油などのエルネギー資源までを幅広く扱い、世界中を相手に大きな取引をしている。その印象から、華やかな所で働いていると言われるけど、事務職の私は専ら裏方の仕事をしている。

 今朝は新しい課長が来るので、その準備の為、一本早い地下鉄に乗る事にした。

 紺色のカーディガンに黒いパンツスタイルでマンションを出て、普段より早い時間に駅に向かった。

 改札を通って、ホームの階段を降りていると、突然、誰かに押される。
 前かが身の姿勢になって、階段を踏み外した。
 掴むも物もなく、そのまま落ちて、前を歩いていた人にぶつかる。

「大丈夫ですか?」

 頭の上で優しそうな男の人の声がした。
 気づくと目の前にネクタイがある。

 紺色のレジメンタルのタイ。

「どこか打ちました?」

 心配そうな声にハッとした。

 男の人の胸の中にいた。
 落ちた所を受け止めてもらったんだ。

「だ、大丈夫です。すみません」

 今の状況、恥ずかし過ぎる。
 頬が熱い。

 もう、何やっているんだろう。 

「本当にすみません、すみません」

 男の人から逃げるように階段を駆け下りて、ホームの端に行った。
 びっくりし過ぎて、まだ胸がドキドキしている。
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