課長に恋するまで
「一瀬君、千葉なんですか。いいですね、山もあって海もあって。僕は長野だから海がある所に憧れるんですよ」

 一瀬君が恥ずかしそうな顔をして、気まずそうに視線をさ迷わせる。
 急に透明なカーテンを引かれた気がする。

「長野もいいですよね。軽井沢に親の別荘があって夏になると遊びに行ってましたよ」

 石上君が場をつなぐように言った。

「あ、ビール来ました」

 座敷の障子戸が開いて、ビールと焼き鳥を持ったかなえさんが現れた。
 かなえさんを見ると石上君の顔が心なしか輝いて見える。

 かなえさんが鶏肉は秋田県の比内地鶏だと説明してくれた。肉質は赤みが強く、適度な歯ごたえがあり、鍋にしても美味しいらしい。焼き鳥は五種類あって、もも、ねぎま、つくね、かしら、レバーだった。
 ビールで乾杯して焼き鳥を頂いた。確かに適度な歯ごたえがあり、それが上手かった。

 あっという間に盛り合わせが空になり、同じ物を追加した。他にもサラダに、刺身に、唐揚げなど、石上君おすすめの物を取った。

 一瀬君は目が合うと気まずそうにするけど、食べている時は笑顔をみせてくれた。

 特に唐揚げが気に入ったようで、昼間、きんぴらごぼうを褒めてくれたのと同じトーンで味付けについて感動したと言っていた。

 そういう一瀬君が見られて面白い。
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