課長に恋するまで
「石上くんが社長になったら結婚してあげる」
 
 かなえさんが軽く流すと、石上君が「俺、いい物件だよ。財閥系のあの三友の商社マンだし、同じ年のやつらよりもらってるよ。それに年下で扱いやすいし。だから、ね、かなえさん、一回ぐらいデートしてよ」と冗談交じりに売り込む。

 積極的な所はさすが石上君。どうやら、かなえさんに気があるよう。

「はいはい。わかったわよ」

 かなえさんはそう言って、行ってしまった。
 見た所、あまり石上君に気がなさそうだ。

「また、かなえさんに逃げられた」

 寂しそうなため息をついた石上君の盃に冷酒を注いでやる。
 それから、ポンポンと励ますように石上君の肩を叩いた。

「課長――!」

 石上君にいきなり抱き着かれる。

「石上君、わかった。落ちつこう」

 酔うと石上君は甘えたくなるようだ。
 そう言えば兄がいると言っていたな。甘える所は弟っぽい。

 焼き鳥屋には九時半までいた。
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