課長に恋するまで
 石上君とは店の前で別れ、同じ駅の一瀬君とタクシーに乗った。

 一瀬君は酔ってて、一人で帰すのは危なそうだった。

 後部座席に一瀬君と並んで座った。

 タクシーが走り始めて五分ぐらいして、一瀬君が肩に寄りかかって来る。
 頭の重みを感じると同時に、ふんわり甘い香りがする。
 香水なのか、シャンプーの匂いなのか。その香りが心地いい。

 こんな風にしてくるって事は気分が悪いのかな?

「一瀬君、大丈夫?」
「課長」
「何です?」
「なんか気持ちいいです。課長の肩」

 気分が悪い訳じゃなくて良かった。

「そうですか」
「日向の匂いがするんです。とっても安心します」
 
 日向の匂い……。
 特にコロンなどは付けていないから、柔軟剤の匂いだろうか?

 それにしても一瀬君、会社では隙がないのに無防備だ。

 同じ年ごろの娘を持つ、父親として心配になる。
 こんな姿、若い男の前で晒したら危険だ。

「ねえ課長」
 
 甘えるような声で呼ばれる。

「私、わかったんですよ」
 
 肩に寄りかかったまま言われた。
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