課長に恋するまで
「何がわかったんですか?」

 一瀬君はうふふと思わせぶりに笑うだけだった。
 小さな女の子みたいな笑い方が可愛い。

「何です?」
「内緒です。私、今とってもいい気分です」

 幸せそうな表情にこちらも穏やかな気持ちになる。

「課長」
「はい」
「寝てもいい?」
「どうぞ」
「じゃあ、おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
「課長って、やっぱりいい匂いがする」

 一瀬君が独り言のように言った。

「なんでこんなに安心する匂いするんですか?」
「一瀬君、眠るんじゃないの?」
「寝てますよ。でも、お話もしたいんです。雨降らないかな。雨が降ればいいのににな。雨降って欲しいな」

 一瀬君が寝言のように繰り返した。
 意識はもうどこかに行ってるのかもしれない。

「なんで雨が降って欲しいんですか?」

 ちゃんとした答えは返って来ないとわかりつつも聞いてみた。
 雨に降られたいなんて変わってるから気になった。

「だって……相合傘……できるから」
< 88 / 247 >

この作品をシェア

pagetop